長門有希の誕生日

〜プロローグ〜
    

 ハルヒの力が及ぶでもなく、自然の力で悠々と桜の花が咲き誇る、そんな時期。そう、俺たちは2年生へと無事繰り上がる事と相成ったのだ。我がSOS団からは留年などというワードはその末尾さえも聞こえてこない所を見ると、やはり誰もそのような事態には陥らなかったようだ。そもそも、俺以外の皆は常に高得点をキープしつつ高順位をマークしつつ今までやってきているらしい。俺なんて、毎回テストが行われる度に身を切るような思いをせにゃならんというのに、なんだこの差は。と誰かに怒鳴りつけてやりたい気分だが生憎怒鳴りつける相手がいないもので、今、俺は新年度始まって最初のSOS団の活動に半分嫌々ながらも勤しんでいる。
その行動とは、新入生を相手にしたチラシ配りだ。内容は、以前と同じ。とは言っても、もう既にSOS団のメンバーの中には3人ほどそういう人物達が居るのでこれ以上増えて欲しくないというのが正直な俺の気持ちである。そういえば異世界人なんてのはまだ居ないな。この中にもしかすると居るかもな……なんつって。
それにしても俺の隣で同じ様にチラシ配りをしている朝比奈さんと長門のバニーガール姿が目に美しい。長門のバニーガール姿を見るのは初めてだ。ただ、その姿を見ていると長門にも朝比奈さんに敵わない部分があったんだな、なんて変態中年オヤジ的な思考に陥ってしまった。まぁ、ここまで派手な格好しておいてそこに目がいかないってのもおかしいのでむしろ開き直ってみる俺が居るわけで。誰か暇な奴、俺を叱ってやってくれ。
 しかしまぁ、新入生達は冷ややかな目を送るばかりでちっともチラシを受け取ってもくれない。俺が目を合わせようとすると目を背ける。これじゃあまるで俺達は変な先輩では無いか、と思うと同時に恥ずかしさがふつふつと俺の中に込み上げてきた。朝比奈さんなんてもう泣き目になってしまっているではないか。もう、終わろう、と思っていると後ろから肩をポン、と叩かれた。俺が振り向くと、そこには教員が立っていた。
 結局のところ、俺の手を下すまでも無く、教員達が俺達を指導しに来た。俺達は(教員達もさすがに主犯格を理解しているので主にハルヒは)こっぴどく叱られた後、ようやく解放され、俺と古泉は部室で朝比奈さんと長門の着替えを待っていた。
 休みの日に何をしたかという訳の分からない報告や、他愛の無い世間話を古泉としばらく交わしていると、朝比奈さんの舌足らずなスウィートボイスが部室内から聞こえてきた。それを合図に俺と古泉は部室に入る。ハルヒが何やらブツブツ言っているが、どうやらさっきの教員達への文句らしい。いらいらしているハルヒを見ているとあの空間が発生していないか少し心配になってくる気がしないでもない。古泉の例のバイトが入るのも、もはや時間の問題か?まぁ、俺にはほぼまったくと言っていいほどに手伝ってやれることが無いので、頑張れとしか言えないのだが。まぁ、言わないけどな。

 新しい教室。新しいクラスメイト。見飽きたと思っていたこの北高の何もかもが新鮮に見えてくる。ちなみにハルヒとはまた同じクラスになってしまった。谷口、国木田も同じ。長門と古泉は違うクラスだった。これもハルヒの望んだ結果なんだろうが、どうにも腑に落ちない。まぁ、いくら考えても答えの出ないことは考えるだけ無駄だ。そういうことをこの一年で俺は学んだ気がする。って、ハルヒと出合ってもう1年になるんだな。
 去年と似たような展開を迎えた自己紹介も終わり、去年と同じハンドボールバカということで有名な教員の熱血漢溢れる自己満足的要素がたっぷりな自己紹介も終わり、最後に学級委員なるものを決めるという段取りに移った。基本は挙手制であり、誰も立候補者が居なければ投票、という形になる。ここで手を上げるような奴を俺は今までに見たことが
ない……と言えば嘘になる。あまり思い出したくないのだが……長門と同じ「対有機生命体なんちゃら」こと朝倉涼子はここで手を上げて学級委員になった。あいつもナイフさえ無ければ谷口主催美的ランキングAA+という外見に付け加えて、なかなかの性格の良さもあり、まさにクラスをまとめるに当たってこれ以上ない程に向いていると言えよう。
 などと俺が一人感傷に浸っていると、ガタン、という物音と共に上がる手が見えた。その主は……誰だこいつ。隣の奴をとっ捕まえて聞けば転入生らしいのだが……。

その時、もちろん俺はまだその人物の正体に気付いていなかった。
 
そして―――然るべき事件は起こった。