長門有希の読書

「なぁ長門、何の本読んでるんだ?」

 俺の純粋かつ無垢な問いかけに長門は本を目の高さまでひょこりと持ち上げ、その背表紙をまじまじと俺に見せ付ける。俺はそのタイトルを見て驚愕した。何度もその文字を読み返したが、何度見てもタイトルの文字は変わらない。はてさて、長門がこんな本を読むなんて、一体何があったんだろうかね。

「何かあったか?」
「特にない」
「そうか」
「……」
「……」 

 会話が続かん。長門の手にあるその本のせいで雰囲気がおかしくなってしまったではないか。いやいや、長門がどんな本を読んだって別に良いんだ。ただな、いままでの長門のイメージからするとそれは合わない気がするんだ。しかしそんなところまで俺がツッこむのはナンセンス、無神経ってなもんだ。だがしかし、気になるもんは気になる。

「気になるのか?」
「……」

 長門の悠々とした首肯。

「その……なんだ、えー……」
「……」
「まぁ………頑張れよ」
「そう」


 長門が吸い込まれるかのように読んでいた本。そのタイトルは「意中の人をゲットする方法」、というものだった。たぶん長門にも気になるあの人的な人物が現れたのだろう。頑張ってその恋を成就させろよ、長門。しかし、俺には寝取られ属性など無いのだがな。

「大丈夫」
「何がだ?」
「この事象はその属性には当てはまらない」

 何がなんだかわけが分からん……なぁ古泉、オセロでもやるか?

「もう少し素直になったらどうです?」
「うるせぇ」