長門有希の伝言Ⅱ
昼休みに長門に呼び出されたかと思ったら、なんとカレー弁当をご馳走させられた。一体何が起こったと言うのだ。そして俺の手元には長門の質素な弁当箱だけが残った。返すのは……放課後で良いよな?
長門の弁当箱がハルヒに見られたらなぜ俺が持っているのかとしつこく問われそうなので俺は必死に隠していた。教室に戻るなりすぐさま鞄の中に忍ばせた。
放課後。
俺は無事誰にもばれずにSOS団部室に着いたものの、一つの懸念事項を抱えていた。長門がいない。
「なぁ古泉、お前、長門がどこにいるか知ってるか?」
「いいえ、知りませんね」
「でもぉ、長門さんが来るのが遅いなんて珍しいですねぇ」
「有希ったらどこ行ってんだろ」
そう、もう既に長門以外のSOS団員は団長も含めてこの広いとは言えない空間に結集していたのだ。まったく、暇なやつらだ。……俺も含まれるところが少々物悲しいところではあるがな。
というわけで長門がいないことにより妙にピリピリした空気が生み出され、その身を切るような空気の中で俺と古泉はいつものようにオセロに興じた。……ハルヒはどうやら長門が来ないと心配になるみたいだな。眉のつりあがり具合がなかなかのものだ。
ふと、扉が開く音。あぁ、やっと長門が来た。
「有希、遅かったじゃな――」
その後ろに緑色の髪が特徴のあの先輩が立っていた。
「こんにちは」
その先輩が口を開く。俺たちは唖然としてしまった。
「えーと、有希、あんたが連れてきたの?」
長門のゆるやかな首肯。いったい何が起ころうとしているのか俺にはまったく分からん。そして訳も分からぬままに何時の間にやらあの先輩は席に着いていて、ハルヒと対面形式でなにやら話している。俺たち3人は素立ち状態で待たされ、朝比奈さんはお茶汲みをしている。
「―――で、何ですか?」
ハルヒはあいさつと自己紹介をもう済ませてしまっているようだ。
「実は……」
長門が連れてきた先輩の話では……
どうやらこの先輩が―――鶴屋さんが記憶喪失になってしまったようだ。最初見たときは別人かと思うくらいにしょぼんとしていたもんだから、一体何が起こるのかと思ったが……いったいどうしたもんかね。
「記憶喪失ですってぇ!?」
「そうです」
敬語の鶴屋さんははっきり言ってお嬢様系のボンボンって感じだ。まさかこんな風になるとは誰が予想しただろうか。いや、誰も予想できない。というか、これもハルヒが望んだことなのか?
「分かりません、ですが長門さんなら何か分かるのではないでしょうか」
だろうな。最初から長門に訊けばよかったな、すまん古泉。
「いえ、頼ってくれるだけでも嬉しいですよ」
そうかい。で、長門。これは何なんだ?
「地球外情報生命体が彼女の奇異言語に反応し、彼女の身体を媒体として融合した」
……つまり、「〜〜にょろ」っていうあれか?
「そう。その地球外情報生命体に名前を付けるとしたら」
まさか……?
「めがっさ体」
めがっさ体……これまた随分とユニークな名前だな。まぁ、いい。それで……どうするんだ?
「彼女の視神経から脳への進入を試みる」
どうやって?
「こちらの身体情報を電子転送する」
「つまり、精神を鶴屋さんの脳に送る、ということですか?」
「正確には違う、しかし解釈としては正しい」
なんかよく分からんが、任せたぞ、長門。
「……」
首が縦に数ミリ動く。まったく、頑張れとしか言えない自分が嫌になるな。
少しばかり長門と打ち合わせした後、作戦を実行に移す。
「なぁハルヒ」
「なによ」
どうやらこの事件はハルヒにとって面白くないだけらしいな。こいつが発した3文字に不平不満感が溢れている。その声に鶴屋さんが怯える。……マジで記憶喪失なんて笑えないって。
「何か解決法は分かったか?」
「なんにも!まったく鶴屋さんったら!」
「まぁそう怒るな。……ところで、長門が以前読んだ本に記憶喪失を治すとかいう方法が記載されてたらしいが……」
「そうなの?有希」
「そう」
これが作戦。驚くほどにシンプル。だがしかし、シンプルイズベスト。
「有希。方法、教えて」
「……」
「どうやら部屋で一対一にして欲しいみたいだぞ?」
「そう」
「……分かったわ、出ましょう、みんな」
ぞろぞろと部屋を出て行くハルヒ達。さて、俺も出るとするか。
「あなたはここにいて」
「は?」
次の瞬間、長門が鶴屋さんに手の平を向ける。例の呪文が聞こえてくると同時に目の前がフィードバックする。俺も巻き添えか。
視力が戻るとそこはやはり砂漠の風景が広がるあの場所だった。
「にょろにょろにょろ〜〜っ!」
そして、そこには何か色々と物凄い鶴屋さんがいた。