第11話『長門"有希"の憂鬱Ⅱ』


 俺は、有希の世界改変により、これまた大変なことに巻き込まれてしまった。時間が入学時まで戻り、さらにはこの世界の長門(有希だと思う)が完全にではないがハルヒ化してしまったのである。そして、俺は元の世界の長門があらかじめ用意してくれていたらしい(?)栞の力により、記憶を取り戻す。
 長門が朝比奈さんを部室まで連れて来る。この新生長門により誕生してしまった部活。

 その名前が今さっき明かされた。


 その名も、KYON団。


 やめてくれ。なんか恥ずかしい。それにしても、先の展開を知り尽くしている俺はこの世界では理不尽な存在じゃないのか?次は古泉が転校して来るはず。その後は、いろいろ長ったらしくも意味不明的な説明を受けるだろうが、俺はそれを知っているので先に明かしてしまえば回避できるイベントだ。二度もあんな長い説明を聞くわけにもあるまい。


 ……って、朝倉が俺を襲ってくるのはどうすんだ?俺は一人で立ち向かわねばならんのか?……教室に行かなかったらどうなる?たぶんそれでも帰っている途中、道の真ん中でナイフを持った朝倉に襲われるだろうな。……助けてくれ、元の世界の長門


 ……今の状況はこんな感じだ。うむ。冒頭の簡単なあらすじとしては十分すぎるだろう。さて、今後のKYON団はどうなることやら。頑張れ、俺。


 俺は目の前の朝比奈さんに言っておく。
「別に入んなくていいですよ。自分が好きな部活に居れば良いと思いますよ」
 もちろん、朝比奈さんは俺の心遣いに反し、入ると言うだろう。

「……じゃあ……そうさせてもらいますぅ……」
 え?!ちょっと待ってくれよ!これはマジなのか?俺の予想は外れたのか?
「……そうですか……ところで、さっきの『あ』はなんだったんですか?」

 朝比奈さんは少し黙った後、おずおずと口を開き、

「……あそこに置いてある……血塗られたバット……」

 おいおい……なんで部屋の隅にまるで返り血を浴びたようなバットが……。長門、お前の趣味か?……だとしたら良い趣味してるな……。

「もう……いい」
 何がいいんだ?
「胸が大きいだけでは……使えない」
 !!それだけは禁句じゃあ……。
「ひっ!ううぅ……ぐす、ぐすん……」
 ほら、朝比奈さんが泣いてるじゃないか。
「もう長門さんなんて知らないですぅーっ!」

 朝比奈さんはどこかへ走り去ってしまった。ちょっと朝比奈さんには可哀想だが、朝比奈さんが居ないのならば、パソコンが手に入らないじゃないか。他には…………すまん、ちょっと度忘れしたみたいだ。明日までには思い出せる……と思う。


 朝比奈さんは本当にこの団に入らないらしいな。どうする?長門。KYON団の萌え要素が無くなったぞ。
「大丈夫」
「何がだ?」
「わたしが補完する」
「……マジかよ……」
「そう」
「メイド服とか着るのか?」
「……着て欲しい……?」

 確かにそれも着て欲しい、だがな、俺にはどうも長門のブルマ姿が頭から離れん。これも脳内yukiフォルダに保存されてるらしいな。無意識のうちに。

「つまりだな……えーと、長門
「なに」
「メイド服でもいいが、制服でもいいぞ」
「そう」

 俺の脳内会議の順序はこうだ。まず、案がたくさん出る。メイド服。体育服。制服。バニー。ナース。女王様。他は様々。そこで気づく。他の奴に見られたらやばい物がある。……んで、さらなる脳内討論の後、それなりに健全なものはメイド服と制服だけになってしまったので
あんな答えになってしまった。俺は他の奴の目を気にしないなら体育服で頼むつもりだったんだがな。あのブルマは反則的な可愛さだ……って、何言わせんだ。


 そんなこんなであやふやなうちにもう帰る時間だ。俺は一人で帰った。ベッドに寝っ転がり、この世界を元の世界に戻す方法を考えた。……あぁ、情報が少なすぎるな。


 ……結局俺はこの後の数日間は何も思いつかないまま過ごすことになるんだな。もうちょっと早く気づけば少しくらいは準備が出来たのに。


 次の日からは毎日の放課後、部活が始まった。その活動は全て読書。名前変えなくて良かったんじゃないか?……今日の活動も読書か……?

「……そろそろコンピュータが欲しいところか」

 元の世界だったらそろそろハルヒが言っていた頃だろう。しかし、朝比奈さんがいないからどうすることもできないな。……まぁ、朝比奈さんとしては喜ばしいことなんだろうけども。

「そう」
 やっぱり長門もそう思うか。でも、どうすんだ?金無いぞ?
「コンピュータ研究部から貰う」
 ……どうやって?
「……こうする」

 長門は俺の襟元を掴み、自分の方へ倒すように足を払う。俺は長門に倒れ掛かる。
「うわっ?!」
 長門は地面に仰向けになり、その上に俺が覆いかぶさっている状態だ。待て待て、なぜこうなる?!

「あなたがわたしを襲う写真を撮る。コンピュータ研究部が襲っているように写真を改ざんする」
 おいおい、方法は似ているが、なぜ俺が襲わなくちゃならんのだ?理性を保つのがとってもキツいんだが。
 長門はどこからかカメラを取り出し、俺の肩の辺りで自分に向けて写真を2、3枚ほどパシャリ。
次に横からパシャリ。

「手はここ」
 長門の顔は少し赤みを帯びている。そう言って俺の手を掴み、自分の胸の上に置いた。
「揉んで」
「……は?」
「……写真……リアリティを出すため」

 俺は長門の胸をほんの少し"揉む"というか"つまむ"。表現は少しアレだが、それくらいしかないのだ。長門の顔がドンドン上気していってるのは俺のせいか?……それにしても柔らかいな……って、変なこと考えるな!考えたら負けだ!

「……いい」
 またもや写真をパシャリと。
「次はもっとリアリティを出すために……」
 まさか、実際に襲えと言おうとしているわけじゃあるまいな。
「実際におs」
「そこまでしなくてもいいだろ」
「……そう。良い写真が取れた」
「……そうか」
 その写真は長門が持ち帰った。どんな感じになるんだろうか。

 次の日の朝。長門はそれを持ってきたわけなんだが……。

「その写真、何も変わってないじゃないか」
「これでいい」
 どこか満足気な顔にも見える。
「何が良いんだ?」
「……ツーショット」
 ぼそ、と聞こえないように言う。生憎、近いから聞こえてしまう。……やっぱ、パソコンはいいか。

 今日の休み時間の長門はずっとその写真をまじまじと見ていた。そんなに気に入ったのか?はっきりいって、そのままだと俺が長門を襲っている写真なんだ。だから他の奴に見られでもしたら、俺は変態と呼ばれるだろうな。なるべく早く長門がその写真をふところに直すことを俺は必死に祈っていた。

 そういえば、ついさっき岡部が1年9組に転校生が来ているとの事を言っていたが、長門はいっさいそれについては触れなかった。古泉までもこの団に入らないのか……?

 俺は休み時間に古泉のところまで会いに行った。なぜかと言うと、会いたかったから……なんつーのは嘘で、実際には「長門も閉鎖空間を発生させるのか」とかを訊こうと思ってな。俺は教室で女子に囲まれている古泉に声をかける。

「古泉、ちょっと来てくれ」
 俺は久しぶりに古泉のニヤニヤスマイルを見て、なぜか以前までの……元の世界のいつもの風景を思い出す。俺はそんなにこのニヤケ顔を見ていたのか?

「誰ですか?」
キョンだ。知ってるだろ」
 それにしても自分でキョンって言うのもあれだな。俺は続けて疑問を投げる。

長門有希って知ってるか?」
「……あなたは何者ですか」
「一言じゃ説明できんし、ここじゃ話せないな」
「じゃあ外にでましょうか。そこで話してください」

 俺と古泉は外に出て、あの席に座る。俺が古泉から説明を受けた場所だ。ここは話を円滑に進めるために自分の正体を明かしておく。
「……話して貰いますよ」
「あぁ……実はだな、……俺は……異世界人みたいなもんなんだ」
「……?!」
 ニヤケ顔が崩れ、驚いた顔に変わる。そしてシリアス顔へと移行する。
異世界人?!……なぜこの世界に来たのですか?」
「それは教えられん。というか、俺も分からん」
 有希の世界改変のせいだが……分からないことにしておく。


「で、長門は閉鎖空間は発生させるのか?」
「どうやらあなたは全て知っているようですね」
 ……気づくのが遅くないか?
長門有希は閉鎖空間は確かに出しています」
「なんか含みのある言葉だな」
「しかし、今現在はほとんど無くなりました」
「なぜだ?」
「今現在と言いましたが、正確にはあなたが長門有希接触を始めてから、ですね」
「……はぁ?」
「それにですね、長門有希は以前までは異世界人、未来人、超能力者を探していましたが、もうどうでも良くなったみたいです」
「……どういうことだ?」
「つまりですね、長門有希はあなたさえいれば、異世界人も未来人も超能力者もいらないと考えたのでしょう」
「……意味が分からん」
「そのままの意味ですよ。ヒントは、土曜日と日曜日に閉鎖空間が発生するということでしょうかね」
 さらに意味が分からん。


 俺はそこにミスターニヤケスマイル古泉を放置し、教室へと戻った。……長門は俺と出会ってから閉鎖空間をあんまり出さなくなった、ということがどういうことを指し示しているかくらいは俺にも分かる。

 どうやら俺はまた選ばれちまったようだな。

 "進化の可能性"であり"時空の歪み"であり"神"とも呼ばれる奴に。

 さて、……これまたどうしたもんかな。


 その日の放課後。
 俺はいつものように静かな時間を求めて部室へ行く。今日読む本は何にしようか。そんなことをぼーっと考えながら部室のドアを開ける。

 ……あのー、長門さん?何をしておいでに?
「……出てって」
「あ……す、すまん!」
 俺はドアを閉じる。長門が着替えていた。詳しく語りたいところだが、変態と思われるからやめとく。これだけは言っておこう。……眼福だった。あぁ、脳内yukiフォルダがどんどん充実していく。

 急にドアの内側から話しかけられる。
「……いい」
 俺がドアを開けると、ちっちゃくて可愛らしいメガネっ娘のメイドがそこにおったそうな。いや、実際に見たんだがな。
「……どう」
 長門はその場でクルリ、と一周し、俺に見せ付ける。丈の短いスカート。開いている胸元。フリフリの着いたカチューシャ。……正直、たまりません。情熱を持て余す。今すぐ抱きつきたい、というか襲いかかりたい欲望を必死に抑えつつ、俺は言う。

「……い、いいんじゃないか」
「そう」
 少しだけだが顔が赤くなる。

 長門はそのままの姿で読書に耽る。俺もなんか読むとするか……よし、今日はこれだ。それにしても最近分かったことなんだが、読書ってのは時間を忘れさせるもんだったんだな。いつの間にかもう帰る時間だ。長門が急に口を開く。

「明日は土曜日」
「そうだな」
「だから……不思議を探しに行く」

 え?やるのか?不思議探索……。
「そうか……何時からだ?」
「……明日…朝9時……駅前」
「……分かった」
 長門がじっと俺を見つめてくる。
「……」
「……」
 無言。何が言いたいんだ?長門
「……出てって」
 あ。
「そ、そうだったな……じゃあな!」

 俺は一人で家に帰る。やっぱり、不思議探しするのか……。

 次の日の朝。土曜日なのでいつもより少し遅めに起こされた(妹のボディプレスッ!)俺は朝から出かけなければいけないことを思い出し、急いで準備を済ませる。よし、まだ間に合う。むしろ早すぎるくらいだ。

 ……しかし、長門はそれよりも早かった。俺が駅前に着いた頃にはすでに長門は着いていた。やっぱりな。

「よぉ」
「……」
 うなづく。長門にとって挨拶とは、うなづくことらしい。
「さて、どこに行くんだ?」
「……」
 分からないようだ。
「とりあえず街でも行くか」
 長門はまたもうなずく。俺と長門は街へ向かって歩き出す。

「……一言いっておく」
「……?」
「これは……デートじゃ……ない」
 ほんの少しだけ顔が赤くなる。……今思えば、デートみたいだな。二人っきりで街中を歩く。さすがに手は繋がない……か。元の世界の長門を思い出す。あいつは……俺の腕に抱きついてたな。それのおかげでちょっとばかし歩きにくかったんだよな。……長門……。俺は感慨に耽る。隣で歩く長門を見ながら。

「……なに」
 俺の視線に長門が気づく。いや、なんでも。
「そう」
 それにしても本当にどこへ行こうか。
「図書館でも行くか?」
「……」
 首を縦に振る。……やっぱり長門長門だな。

 図書館に着いた。着いたと同時に長門はフラ〜っと面白そうな本がありそうな場所へと歩いていく。……長門……。俺は元の世界での出来事を思い出す。あの時も今のように人は結構多かった。俺があの時読んだ本は……あったあった。
 ……やっぱこの本は泣けるな。しかし、今度は嬉しいような感情での涙だった。

 長門……長門…………会いたい……。

「なに」

 ってうわぁ!?……長門か。いつかのように俺が大声を出してしまったせいで周りの利用客がこっちを振り向く。すいません、みなさん。

「……長門、いるならいるって言ってくれ」
「ずっとあなたと一緒だった」
「は?俺の後を着いてきてたのか?」
「そう」
「……いつの間に」
 俺と長門はしばらく見つめ合う。

「……心配しないで」
「何がだ?」
「……わたしはここにいる」
「……あぁ。分かってるさ」

 分かっている、分かってはいるが……あの長門に会いたいんだ。

 俺らは昼飯も抜きにして、読書を続けた。それにしても……腹減った……。なぁ、長門。そろそろ帰ろうぜ。
「そう」

 駅前まで一旦戻り、自転車に跨る。どうやら長門は歩きのようだ。
 
 それじゃあな、長門
「……のせて」
 ……あ、あぁ。

 長門は俺の自転車の荷台に跨る。そして俺の背中に抱きつく。
 控えめな感触が、俺は好きです。………じゃなくて、駄目だ、がんばれ。理性。
「わたしの家まで」
 ……あ、あぁ。

 ……俺が自転車で長門の家に着くまでずっとその柔らかな2つの感触を楽しんでいたのは秘密だ。いや、もう俺を変態扱いしてくれてもいいな。俺はこの感触が楽しめるなら変態でいい。……今俺、危ない思考してるな……。

 長門の家にとうとう着いてしまった……。俺はとても後ろ髪引かれるような気分になる。

「きて」
 え?
「……」
 長門は黙って正面玄関の鍵を開ける。開いたドアの向こう側で長門が立ち止まり、こっちを振り向く。……それは来いってことか?
「晩ごはん……」



 俺は長門の家にあがりこんで、カレーをご馳走になった。まぁ、いつものレトルトだから、味は良いとも悪いとも言えないな。なぜか長門はどう見積もっても6人前はあるであろう量のカレーを、これまた2人分より明らかに多い量のご飯に盛ってきた。しかも、一つの大皿に。俺は「小皿をくれ」と言ったが長門は「おさらが汚れる」と断固拒否。どちらかというと、この大皿のほうが要領悪くないか?
 で、仕方が無いので俺と長門は二人横に並んで悪魔のような量のカレーに立ち向かう。すると、当然のごとく肩が触れ合う。長門はそのたびにピクリ、としていた。なんだろうか。
 ……で、結局のところ俺はけっこう粘っていたが、残り3分の1、と言うところでリタイア。いつの間にフードバトルへと移行したのだろうか。小学生が真似して死人が出たってのに。
 残りは長門がペロリと食べ終わってしまった。俺が皿を台所まで持って行く。

 俺はまた長門の隣に座る。……あぁ、もう満腹だ。さすがに昼飯抜いたから腹減ってたとしても、この量は無いだろう。
「そう」
 長門は俺の腕あたりに肩で押してきた。

「何だ?」
「わたしが勝った」
 まぁ……確かに雰囲気はフードファイトだったとは言えど、俺が勝てるはずも無い。
「なんか罰ゲームでもあるのか?」
「ある」
「なんだ?」

 たぶん長門のことだから、そこまでキツイ罰ゲームではないだろう。……なんて甘い考えでいるから俺はだいぶ前にヘタレとか言われたんだろうな。

「わたしの家に泊まっていくこと」
「……は?」
「……いい」
 何が「いい」のか分からん。

 俺はなぜだか長門の家に泊まっていくこととなった。理由は分からん。二人でトランプしたり読書してたりすると、いつの間にかもう11時だ。良い子はもう寝る時間です。
 と、いうわけで寝るか。それを長門に伝えると、長門も寝ると言い出した。たぶん長門も眠いんだろう。
 寝室に入る。おぉ、もう布団が敷いてある。しかし、一つだけ。

長門、布団はもう無いのか?」
「……ない」
「じゃあ一緒に寝るか?……なんt」
「そうする」
 おいおい……俺はなんてな、と笑い飛ばそうと思ったのに。
「いや、俺は居間で寝るからいいぞ?」
「いい」
「……居間で寝かせてくれ」
 じゃないと夕方からそうとう我慢していた俺の理性が持たん。
「これは、団長命令」

 そういえば、長門はKYON団の団長だったな。

「従わないと……私刑」

 漢字が違うことが長門の優しさだな。その私刑ってのもどんなのか受けてみたいがな。俺は顔を真っ赤にしながらもこう言う。

「その……もしも、だがな……?もし俺がお前を襲っちまったとしたら……どうするんだ?」

 もちろんそんなことは俺の理性がさせないが、もしも、の話だ。こうでも言わないと長門の命令がそのまま通りそうだったんだ。神様、こんな俺をどうか許してやってくれ。


「……従わないと私刑と言ったはず」


 ……仕方がないので、俺は布団に潜る。長門も眼鏡を外して潜り込んで来た。俺は長門がいないほうを向く。……俺の心臓の音が喉の奥で聞こえる。ここまで大きいんだから聞こえてるんだろうか……。
 俺の首に長門の荒めな息がかかる。ピクリ、としてしまう。長門の体温が背中のすぐ後ろで感じられる。長門はいったい、何をしているんだ。

 後ろで何かがもぞもぞと動く。なんだ?俺は振り向く。

「っ!?長門、何やってんだ!」
「……あつい」
 長門が服を脱いで下着になっている。長門らしい、質素な下着だ……。顔が赤い。俺も、長門も。
長門は熱い視線で俺の目を見ている。眼鏡をしていない長門を見たのは久しぶりだ。

 その目を見て、俺は元の世界の長門……と………有希を思い出す。だ……駄目だ……っ!
 俺は後ろを向く。長門は後ろから抱き付いてくる。俺は必死に寝たふりをする。こんな臆病な自分を誰が許せるものか。


 ……朝だ。寝たふりしていたらいつの間にか寝てしまっていたんだろうな。長門も俺の隣で寝息を立てて寝ている。

 俺は昨日のお返しに、とほっぺたにチューをしようとする。……やっぱ、俺って意気地なしのヘタレだな。自分で言うのもなんだが。

 長門が薄く目を開けて、小さく呟く……。


「いくじなし」


 ……長門、いつから起きてた?
「あなたが起きる前から」
 ……さっきのことは忘れてくれ……。
「そう」
 そういえば、昨日の夜は……。
「……あれは……」
 長門は俺に顔が見えないように俯いて言う。

「……あなたのテスト……」
 はぁ?
「団長に今後……変なことをしないか……の、テスト」
 ……そうか……。

 俺は昨日と同じくカレーをご馳走になり、(量は普通だった)家に帰った。そして、俺は暇やらなんやらを持て余したまま時は過ぎ、月曜日になった。

 俺は気づく。明日……朝倉の手紙がくるんじゃねぇか?とりあえずその日は何も無く、平和な一日だった。

 次の日。

 俺は学校に行き、靴箱を確認しようとする。確か……今日、のはずだよな……?朝倉からの手紙は入っているのか……?靴箱を開く。そこには一枚の紙切れが。内容は……以前と同じだ。

『放課後誰もいなくなったら、1年5組の教室に来て』

 俺は授業中も休み時間中も昼休みもずっと一人で対策を練っていた。しかし、考えても考えてもその対策は出てこない。マジで助けてくれ……元の世界の長門……。

 いつしか放課後になっていた。部室でぎりぎりまで対策を練っていたが、何の案も出ん。

 とりあえず、教室……行くか……。俺はいつもの5倍は重く感じる足を嫌々ながら動かし、教室へと向かう。

 教室を覗く。そこにはやはり、夕日に照らされている朝倉がいる。

「遅いよ」
 俺は汗だくだ。緊張しまくっている。
「入ったら?」
 引き戸に手をかけている俺は、そこで粘るのもなんなので、とりあえず教室に入る。……入りたくねぇんだけどな……。
「朝倉……」
「あなたは少し情報を持ちすぎているわ」
「なっ!知っていたのか……俺の正体を……」
「そ。意外でしょ」
 意外も意外だ。なぜ知っているんだ。
「じゃあ今からわたしがすることも……分かるよね?」

 急に後ろのドアを気にする俺。しかし、瞬時にドアがなくなり、灰色の壁へと早変りする。

 朝倉は一息ついて、呟く。


「あなたを殺して長門有希の出方を見る」


 朝倉はナイフを持ち、物凄いスピードで飛ぶように襲ってくる。俺はそれを必死に避ける。
「と、とりあえず落ち着いて話し合おうぜ。なんかお前とは分かり合える気が……」
うん、それ無理
「ははは……やっぱり……か」
「いくよ」
「……っ!」

 俺は朝倉の猛攻を避け続ける。……こんなの相手にしてられるか。まぁ、避けるって言っても、朝倉は全部ギリギリのところしか狙わないから、やつはこれを楽しんでいたのかもしれないな。

「なぁ……朝倉……こんなことして……楽しいか……っ!?」
「楽しくなんか無いわ……っ!」
「じゃあ……俺と……もっと……陽気な、日々を……すごさないか……?」

 会話の間も猛攻は止まない。

「……もう終わらせるわ」

 く、来るのか……っ!?

「最初からこうして置けば良かった……」

 ……口だけ動く……?!
「朝倉!お前も俺等の団に入らないか?!」
 朝倉は俺の言葉を無視して、自分の言葉を続ける。

「……だって……あなたの言葉を聞いたら……決心、揺らいじゃう……」

 その目には、涙。
 
「でも、あなたはわたしの気持ちには気づかなかったわ……」

 ……そ、そうだったのか……。俺はせっかく口が動かせるのに言葉が紡げない。


「……さよなら」


 朝倉が俺にナイフを向け―――突進してくる。



 ――――その瞬間、何者かがライダーキックのような蹴りで天井をブチ破って入ってくる。コンクリートの破片、砂、埃、蛍光灯の残骸などで視界が塞がれる。

 ……誰かが助けに来た?!


 次第に視界が晴れる。



「―――な、なんでお前が来るんだ?!」



 そいつはふん、と鼻息を鳴らして大きな声で言う。



「助けに来てやったわ!あたしに感謝しつつ、せいぜい死なないよう頑張りなさい!」



 そこに現れたのは――――黄色いカチューシャをつけた長髪のハルヒだった――――


第11話『長門"有希"の憂鬱Ⅱ』〜終〜


キョン「次回予告!
   ハルヒって長門と同化?したんじゃなかったのか?」
有希「それはあくまであなたの予想に過ぎない」
キョン「そうか……?」
有希「そう」
キョン「まぁいい。とりあえず俺の命は繋がったようだ」
有希「まだ分からない……」
キョン「こらそこ。不吉なこと言うな」
ハルヒ「大丈夫よ、あたしがあんたを守るんだから」
キョン「ハルヒ……」
有希「第12話『長門"有希"の憂鬱Ⅲ』」
キョン「乞うご期待!」