涼宮ハルヒの靴下
「うぃーす」
「……」
そこには団長席で俺を見ながらニヤニヤしているハルヒがいた。他の三人はまだ来てないみたいだな。
「……おいハルヒ。何か不満でもあるのか?」
「さぁね」
部室に入るなり、目の前に靴下が落ちているではないか。いったい誰のだ?こんなところに脱ぎ散らかすなんて穏やかじゃないな。拾い上げて見てみるとなんと名前が書いてあるではないか。今時靴下にまで名前を書いている高校生ってのもなかなか珍しいもんだ。名前を見てみると、『涼宮』と書いてあった。なんと、ハルヒの靴下であった。団長席でパソコンに向かって喜怒哀楽の激しい表情を見せているハルヒに話しかける。
「おいハルヒ、靴下落ちてるぞ」
「そう」
「これ、お前のだぞ」
「そう」
「……何が言いたい」
「あんたが持って帰んなさい」
「は?」
まったく意味が分からん。これはこいつの所有物のはず。なぜ俺が持って帰らねばならんのだ。雑用係ってのは洗濯係も兼ねてるのか?……もしそうだとしても、明らかにおかしい。
「ほらほら、鞄にしまったしまった」
「……」
「明日洗濯して返しなさいよ?」
まるで俺がハンカチでも借りたかのような言い振りだな。生憎だがこれはハンカチのように使い勝手が良く、人に貸すようなものではないんだ。
「え?使うでしょぉ?」
まったく、今日のコイツはどうにもおかしい。頭のネジが3本ほど外れてるらしいな。長門に言えばそのネジを締めてくれるかも知れないぞ。
「うっさいわね、今日は解散!」
「おいおい……まだ誰も来てないぞ」
「解散ったら解散!あとあんたの靴下貸しなさい!」
「はぁ?」
「いいから!早く脱げぇ!脱ぎなさい!」
……あー、やっぱこいつ壊れてるな。まぁ可哀想とは到底思えんがな。
「んじゃ!」
「……」
ハルヒは嵐のように去っていった。俺の靴下を片手に。その後、入れ替わるように朝比奈さんがやってきたので俺は部室の外で待っていた。長門が来た。
「よぉ」
「……」
「今日のハルヒはどうかしたのか?」
「性欲とストレスの過剰な蓄積による精神の湾曲」
「……今なんて言った?」
「性欲とストr」
「分かった。もういい」
「そう」
性欲とストレス、長門は言った。俺がその意味を噛み砕いて理解しようとしていると長門は急に靴下を脱ぎ始めた。……長門、どうした?
「あなたが涼宮ハルヒの策略にかかるのを未然に防ぐ。これを代わりに使って」
「お前の靴下をか?」
「そう」
「何に使うんだ?」
「それは、あなたが一番知っているはず」
「そうか?」
「そう」
そんな俺としてはまったく使い方が分からないんだがな。
翌日。結局、朝比奈さんと古泉の靴下も貸してもらった俺は昨日の夜、ハルヒに〜〜と言え、と長門からメールで言われたので早速それを実行しようと思う。これであいつの策略から脱出できるんだよな?
「ねぇ、キョン……使った?」
「あぁ」
「ど、どうだった?興奮した?」
「はぁ?」
「使ったんじゃないの?」
長門はハルヒの靴下を使わずにわたしの靴下を使ったと言えと俺に伝えた。
「あぁ」
「キョンの、返すわ」
俺の手元に帰ってきたのは洗濯済みの靴下。いったい何をしたんだろうか。
「ちゃんと洗濯しといたから」
「なぁ、実は……」
「何よ」
「お前のじゃなくて長門のを使ったんだが」
「え?」
「長門の靴下を使った」
「な、なんで?」
「さぁ」
「……」
それっきりハルヒは黙りこくってしまった。俺が何したって言うんだ。それと、これは後の話なんだが、今度は長門が俺に靴下を貸してくれとか言い出した。お前もハルヒのように使うのか?
「そう……いい?」
「もちろんだ」
長門なら優しく使ってくれそうだしな。ところで、何に使うんだ?
「ひみつ」
「……そうかい」
さて、と。何に使うのか分かった暇な奴はここに来い、そして俺に説明してくれ。